運動会

11月になると、“かも川親子の療育室”に来る子どもたちの表情は、みんな引き締まってきます。9月からの運動会の練習、10月になってからの予行演習や運動会本番、そのような大イベントを乗り越えて、子どもたちは成長します。

“かも川親子の療育室”に来る子どもたちは、年少組の時から運動会で上手くできたという人はいません。「担任にずっと抱っこされてました」「もう、本当に情けなくて…」と親御さんは嘆きます。年中組の時は「なんとか自分の出番だけはできました」「あとは、ずっとウロウロして座って見ていることができなくて…」と親御さんは言います。そして最後の年長になると「感激のあまり、涙、涙です」と療育室でお会いするまで待ちきれなくてショートメールが届きます。そんな連絡を受けながら、3年間育てた子どもたちのことを思い出し、私も泣きそうになってしまいます。

療育を受ける子どもたちの中には、空間認知の悪い子どもが多く、お遊戯が苦手です。年少組の頃は、動きも単純で適当にごまかせても、年中、年長になると動きは複雑になり覚えきれないのです。組体操をする園もあり、先生の笛の合図でポーズをとるだけでなく、2人組になったり3人組になったり、さらに運動場を大きく移動する場合もあります。一生懸命、みんなについていくだけでも大変なのです。

そのためか、9月、10月は療育室に来ても、途中で寝てしまったり、機嫌が悪くて療育課題を投げ出したり、落ち着いて過ごすことができない子どもが多いです。

親御さんはとても努力されています。「組体操がわからない」と言ってションボリしている我が子のために、園で実際に見学して写真を撮り、それを見ながら子どもと練習するご家庭もあります。ダンスの場合も同じです。振付が、学年が上がるにつれてバージョンアップしていきます。「速すぎてわからないんだもの」と言って、棒立ち状態の我が子を見て、やはり、このお母さんも動画を取りに行きました。

「ダンス、やらない!」って言ってる子どもに何て言えばいいですか?と質問されました。「下手なんだから練習しなさい」は禁句です。掛け言葉は「ママ(パパ)と一緒にやろう!」これだけで十分です。

臨床心理士になるためには、大学院の履修科目で80時間以上の病院実習を受けなければなりません。私は単科の精神病院に実習に行かせてもらったのですが、そこでは退院後に通院しながら患者さんが通ってくるデイケアセンターがありました。毎朝決まった時間に体操が始まります。その体操は、小学生の頃から慣れ親しんだ第1・第2ラジオ体操ではありませんでした。『手のひらを太陽に』という音楽に合わせて体を動かすのです。

♪ぼくらはみんな生きている 生きているから歌うんだ♪

♪ぼくらはみんな生きている 生きているからかなしいんだ♪

これがなかなか難しく、私は振りを覚えるのに苦労しました。とてもキビキビと体を動かす患者さんの真後ろに立って、いつも真似っこして体操の時間を過ごしていました。ところがある日、その患者さんがお休みされて、お手本のなくなった私は全くの棒立ち状態になってしまいました。

翌週、その患者さんを見つけたときは、「先週はどうかされたのですか?」と思わず聞いてしまいました。どうかされたのは私の方なのですが…。

「うちの子、ダンスがなかなか覚えられなくて…」と親御さんから話を聞くと、いつも私は「とても上手にダンスできる子の後ろに置いてもらったら?」とアドバイスします。私自身の笑えるような体験を思い出しながら…。

 

発達障害の子どもの運動会