『かも川親子の療育室』のはじまり

2011年、京都で開室いたしました。その療育室は高野川の近くにあるのですが、なぜ『かも川親子の療育室』なのか、その由来について少しお話したいと思います。

アメリカの絵本作家マックロスキー『かもさんおとおり』のストーリーが、まさに療育を通して家族の絆を強めていく姿と重なるからです。
かもの夫婦は、子どもを出産して育てる場所を一生懸命探します。危険な動物の来ないところ、水辺のあるところ、食料も豊富にあるところ。ようやく見つけた岸辺の茂みで卵を産みます。

子どもが生まれてからが大変です。泳ぎ方、もぐり方、一列に並んで歩くこと、呼ばれたらすぐに来ること、車のついたものには近寄らないことを教えていきます。その間に、かものお父さんは自分たちの住む場所を隅から隅までチェックするために一度は母子から離れます。やがてかものお母さんと子どもたちは、お父さんの待っている岸辺に向かって出発します。

陸に上がって、車の多い道路を渡って、また泳いで。行進していくかもの親子を街の人々が応援し、おまわりさんが交通整理をして、パトカーも出動して、無事にお父さんの待っている川の中にできた小さな島にたどりつくのです。子育ては大変な作業です。

カモの親子

でも実は、見守ってくれている人もたくさんいると思います。
『かも川親子の療育室』も、この物語のような岸辺の一つでありたいと願っています。

『かも川親子の療育室』は当初より、臨床心理士ふたりで一組の親子に関わっていくというスタンスで、療育に携わって参りました。多くの公的な療育機関は4人~5人の小グループで、子どもと親は別々ということが多いのですが、『かも川親子の療育室』は『親子同室』で療育をしています。
子どもの発達段階に合わせた療育課題を提供し、課題の意味や目的について一つ一つ親御さんに解説していきます。それは子どもの今の発達の様子について理解を深めていただきたいからです。

「わからない…」「あっ、わかった」「できた!」と一生懸命に課題に取り組む子どもの姿を見守ることが大切です。子どもは「やりたくない」とそっぽを向いてしまうときもあります。子どもが嫌がるのにも必ず理由はあります。そのことを親担当のセラピストと共に考えながら、同時に子ども担当のセラピストがどのように子どもに接しているのかを見て、親御さん自身が子どもに接するときのヒントにしていただきと考えています。

子どもの発達段階に合わせた療育課題を提供し、課題の意味や目的について一つ一つ親御さんに解説していきます

『かも川親子の療育室』は入園前、あるいは年少、年中あたりから通室する子どもが多いです。そして小学校1年生を終えるまでを『療育の期間』としています。
公的な療育機関は就学後に終わるところがほとんどですが、実は小学校の最初の1年間は、子どもにとっても親にとっても不安や戸惑いの多い1年となります。幼稚園・保育園を卒園で療育が終わるのではなく、小学2年生になるまでの1年間も療育し続ける『橋渡し療育』をしていることが、当療育室の特徴です。

小学校入学後は、4月以降で必ず学校連携をとるようにしています。子どもを特別扱いしてもらうのではなく、子どもの特性を理解してもらうことは、これからの長い学校生活で大切なことです。学校側と親御さんが子どものためにしっかりと協力関係を作るために、『かも川親子の療育室』も共に話し合いに関わり力を尽くしたいと思います。

最近の傾向としては、“療育”に通うことはなかった子どもが小学校に入ってから、日常生活や学習に困難さを示し、相談に来られることが増えています。そのような場合も、子どもの困ることについて親と子の双方から話を聞き、情報を整理し、その原因を探るために検査をすることもあります。そして、つらい状況にいる子どもや親御さんへの精神的サポートをしていくことを大切にしています。

『かも川親子の療育室』を卒室していった子どもたちは、小学3、4年生や中学入学前、卒業前に検査を受けにくることが多いです。そうして子どもの発達の様子を把握し、学習サポートや進路の方向性を決めていく参考にしていただければと考えます。子どもたちの成長した姿を見ることは大変嬉しいことですが、それにも増して、不安や心配でいっぱいだった親御さんが笑顔で「先生、お久しぶり!」と言ってくださるのも、私の喜びです。このように長きに渡って、一組の親子に関わり続けていくことが『かも川親子の療育室』の大きな特徴と言えます。

今後は、ホームページの中で、今までに数多く親御さんから質問された困りごとに対してのワンポイントアドバイスを書いていきますので(月1回程度)、参考にしていただければと思います。そして子どもを通して日々思うことをエッセイ『賀茂川にて』の中で発表していきますので、あわせてお読みいただければ嬉しく思います。

かも川親子の療育室
山本 登喜子